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そのイライラ、本当に人間関係のせいですか?:戦略的に休むという選択

外部のストレスに悩んでいるかもしれません。
しかし、その前に自分の体調は万全でしょうか。

睡眠不足になると、ほんの些細なことでイライラしてしまい、その後に自己嫌悪に陥ることもあります。実際に、睡眠不足になると注意力が散漫になり、感情が揺らぎやすくなることが指摘されています(厚労省:健康づくりのための睡眠ガイド2023)。

睡眠は、心身の疲労回復とストレス解消に重要な役割を果たしています。十分な睡眠をとることで、脳の活動が整理され、感情のコントロールが改善されるのです。

私たちはつい「人間関係が悪いから」「相手のせいだ」と思い込んでしまいがちです。

実際には、体調不良や疲労が原因で心の余裕がなくなり、人間関係まで悪化して見えてしまう心理状態に陥っているのかもしれません。人間関係に悩む前に、まずは体調が整っているかを確認しましょう。心を護るには、体調が大きく関与しています。

この記事では、まず休息を「日常版」と「ライフステージ版」という二つの視点で整理します。
これはあくまで考え方の入り口です。そのうえで、日常に直結する睡眠や体調管理の重要性、簡単にできる自己チェック、さらに出勤していても能率が落ちている状態「プレゼンティーイズム」という見えにくい課題に目を向けていきます。一度立ち止まり、自分の体調を振り返ってみましょう。

キャリアを築くために必要な休息

キャリアを適切に積み上げていくには、戦略的な休息が欠かせません。休息には二つの視点があります。

一つは日常版。毎日の睡眠や食事を整え、体調を万全にすることです。睡眠不足や睡眠の問題が慢性化すると、肥満・高血圧・2型糖尿病・心疾患などの生活習慣病や、うつ病の発症リスクが高いことが分かっています(厚労省:健康づくりのための睡眠ガイド2023)。日々整えることが、心身の安定と長期的な健康の基盤になります。

もう一つはライフステージ版。子育てや介護など、人生の節目でキャリアが一時的に後退する場面があります。これを「遅れ」ととらえるのではなく、「戦略的な休み」として受け入れることが大切です。

介護と仕事を両立する社会へ

これから先、多くの人が介護を理由に休みを取る必要に直面します。厚労省は、2025年4月1日から介護離職を防ぐため、事業主に雇用環境の整備を義務付けました。

具体的には、①研修の実施 ②相談体制の整備 ③事例の提供 ④方針の周知 のいずれかを必ず行わなければなりません(厚労省:改正育児・介護休業法)。これは「休みを戦略的にとらえる」仕組みを社会全体で整えていく動きです。

企業にとっての「休むこと」

休みは個人にとって必要であるだけでなく、企業にとっても重要な経営課題です。健康リスクが高い従業員は低リスクの従業員に比べ、生産性損失が約3倍に達することが示されています(東京大学 未来ビジョン研究センター)。

生産性損失として、プレゼンティーイズムが64%、アブセンティーイズムが11%、医療費が25%(経産省:健康経営資本の構築)。欠勤より、見えない不調(プレゼンティーイズム)の損失が大きいことを知っておきましょう。

区分内容具体例コスト割合
プレゼンティーイズム出勤しているが能率が下がっている状態睡眠不足、慢性疲労、慢性疾患治療中の勤務、痛みやストレスを抱えながら勤務64%
アブセンティーイズム欠勤
(長期休職は除く)
予定勤務時間の欠落(全日欠勤・遅刻・早退・中抜け*通院等)11%
医療費企業が負担する医療関連コスト健康保険料の事業主負担、診療費・薬剤費など25%

簡単にできる仕事能率チェック

自分の仕事能率の状態について、客観的に把握することも大切です。

東京大学が開発したSPQ(Single-Item Presenteeism Question)は、次のたった1問でプレゼンティーイズムを測ることができます。

「最近1か月、あなたの仕事のパフォーマンスを100点満点で表すと、何点ですか?」

点数が低ければ、疲労や集中力の低下が進んでいるサインです。SPQは日本発の尺度であり、国際的な学術誌にも掲載され検証が進んでいるため、簡便でありながら信頼性の高い方法です。休む判断のきっかけとして、日常的に取り入れる価値があります。

体調を振り返るきっかけに

プレゼンティーイズム(出勤しているのに能率が下がる状態)は、本人にとっては「何とか仕事をこなしている」状態に見えるかもしれません。

しかし実際には、集中力や判断力が落ちていることで、ミスが増えたり、対応が遅れたりします。その穴を埋めるために、気づかぬうちに同僚やチームメンバーが余分な負担を抱えていませんか。

欠勤している人のみ責められがちですが、実際には「休まず出ているから大丈夫」というわけではありません。体調が整わないまま働き続けることも、見えにくい形で周囲に負担をかけている可能性があるのです。

「最近、能率が落ちていないか」「集中力が続いているか」といった小さな気づきを持つことが、休むべきタイミングを見極めるヒントになります。体調を整えることは、自分自身の健康を守ると同時に、周囲にとってもプラスになる行動です。

だからこそ、自分の体調や睡眠の質を振り返ることは、単なる自己管理にとどまりません。自分のコンディションを整えることが、周囲の人の働きやすさを守ることにも直結します。これは「仲間への責任」としても大切な視点です。

まとめ

戦略的に休むことは、心を護り、キャリアを築き、企業を持続させるための基盤です。

外部ストレスに振り回される前に体調を立て直すこと、人生の節目に「休む」という選択を恐れないこと、そして自分が無理をして周囲に負担をかけていないかを振り返ること。それが、これからの時代に必要な「休み方の戦略」です。


厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf

厚生労働省「育児・介護休業法について(制度全体)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf

経済産業省「健康経営資本の構築」(PDF)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/009_s07_00.pdf

東京大学 未来ビジョン研究センター「労働生産性の損失とその影響要因に関する研究」
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/projects/labor-productivity/overview/

SPQ(Single-Item Presenteeism Question)公式サイト
https://spq.ifi.u-tokyo.ac.jp/

(参照日:2025-08-29)