抑え込まれる感情が知らせるもの
日々の仕事の中で「気持ちを抑え込む」ことに慣れてしまう人は少なくありません。
特に職場では「感情を表に出すのは良くない」「プロとして冷静でいるべきだ」と考え、心の声を無視してしまう場面が多々あります。しかし、その結果としてストレスが積み重なり、心身が疲弊したり同僚との摩擦が増えたりすることがあります。
感情は敵ではなく、自分の状態を知らせるサインです。感情は私たちを導く「判定装置」としての役割を持っているのです。
感情は判定装置:抑え込まず本心を知る
怒りや不安、苛立ちといった感情は、弱さの証ではありません。これらは「自分が何を大切にし、何に違和感を覚えるのか」を映し出す鏡です。
感情を抑え込むのではなく、それに気づき受け止めることで、自身の本心が見えてきます。感情を判定装置として活用することで、心を理解する視点が育まれ、健やかに働くための基盤が築かれるでしょう。
感情の地図「プルテック感情の輪」で気づくサイン
心理学者ロバート・プルテックは、人間の感情を整理して「感情の輪」として表しました。輪の中心には喜び、怒り、恐れ、悲しみなどの基本感情が置かれ、その強弱や組み合わせによって多様な感情が広がります。
例えば「怒り」は、誰かの態度が不公平だと感じたときに芽生える感情です。
抑え込むのではなく「自分は不公平さを感じている」と認識できれば、冷静に対処法を考えられます。また「恐れ」は、将来の不確実さや安定の欠如を感じているサイン。このサインを受け止めれば、準備を整えたり、支えを求めたりする行動につなげられます。
感情をこうした地図に照らして見つめると、曖昧な気分の揺れが心からの具体的なメッセージに変わります。感情の地図を持つことで、自分の本心を読み取り、冷静に行動を選ぶ力が養われます。
感情に気づき距離を取る:課題の分離で心を護ろう
感情を判定装置として活用し、自分の本心を把握しておくことは、心を護る基本の習慣です。抑え込むのではなく「気づき・受け止める」ことが大切です。
本心がわかると「自分の課題」と「他人の課題」を区別でき、やるべきことに集中しやすくなります。他人の課題に振り回されず、適度な距離を保つことが心を護ることにつながります。
例えば、上司からの指摘に強い苛立ちを感じたとします。その感情を押し殺して「自分が悪いのだ」と無理に納得すると、心の中に不満が積み重なります。
しかし「私は不公平だと感じている」と気づけば、その課題は「自分が改善すべき点」なのか「上司の伝え方の問題」なのかを切り分けられます。自分の課題に集中し、他人の課題には距離を置く。この姿勢がストレスを減らし、健やかな働き方を支えていきます。
日々の違和感は、ノートに書き留めるだけでも効果的です。ほんの数分でも、自分の気持ちを書き出せば気持ちが整理されます。スッキリして気持ちを切り替える習慣が大切です。
リカバリー理論に学ぶ:よく働き・よく食べ・よく寝る循環
感情を護る習慣と並んで大切なのが、生活の基本リズムです。健やかに働き続けるためには「働く → 食べる → 休む → 寝る」という循環が土台になります。
ドイツの研究者サビーネ・ゾンネンタークが提唱した「リカバリー理論」では、労働の後の休息や食事、睡眠は単なる余暇ではなく「回復のプロセス」であり、次の仕事を支える一部だとされています。休息はサボりではなく、成果を持続させるための投資です。
ところが、忙しさを理由に食事を抜いたり、睡眠を削ったりすると、この循環が崩れます。心身が回復できず、集中力や判断力が低下し、さらに感情のコントロールも難しくなるでしょう。反対に、生活リズムを整えておけば、感情に振り回されにくくなり、冷静に課題へ向き合えます。
例えば、昼休みに短い散歩を取り入れる、夕食をきちんと摂る、寝る前のスマホ時間を控える。こうした小さな習慣の積み重ねで、健やかに働く基盤を築きましょう。
心を護り、体を整える:ストレスに押しつぶされない働き方
感情を判定装置として扱い、本心に気づく習慣を持つこと。そして「よく働き・よく食べ・よく寝る」という生活の循環を守ること。この二本柱が揃うことで、安定した心身とストレスに押しつぶされない働き方が実現します。
感情と生活習慣は別々のテーマのようでいて、実際には互いを補い合っています。
感情を理解できると、自分の本心が見えやすくなり、余計な摩擦を抱え込まずに済む。生活のリズムを整えることは、体力や集中力を支え、仕事に取り組む余裕を生み出す。
心を護る視点と体を整える習慣で、仕事にも人間関係にも余裕のある、健やかな働き方を続けていきましょう。
まとめ:今日からできる一歩
ストレスに押しつぶされない働き方を実現するには、大きな変化よりも日々の基本を押さえることが大切です。その軸となるのは次の三点です。
- 感情を「判定装置」として扱い、本心に気づく
- 気づきをもとに心を護る習慣を育てる
- 「よく働き・よく食べ・よく寝る」の基本リズムを守る
完璧を求める必要はありません。できることから一歩ずつ始めれば十分です。
- 今日一日で強く感じた感情を一つ書き出す
(書き出すだけでもスッキリして、気持ちが切り替えられる) - 昼休みに短い散歩を取り入れる
- バランスの良い夕食を楽しむ
- 今夜はしっかり7時間寝る
小さな一歩を続けることで、日々の働き方がぐっと楽になっていきます。

活きるピースは揃っている
変わりたいのに変われない、理想はあるのに動けない
それは意志が弱いからではありません。無意識のうちに、複雑な整理を避けてしまっているだけです。
毎日が手一杯で、面倒を増やしたくない。そのせいで止まっているのです。
けれど、整理に向き合う勇気さえあれば流れは変わります。
まずは気軽に話すことから、停滞気味のキャリアは再び前に進みます。